nina1988の日記

東京に暮らすワーママが日々のことを綴る日記。主に美術館に行ったことなどの感想を綴ります。

chim↑pom展に行ってきた

先日、森美術館で開催されているchim↑pom展 HappySpringに行ってきた。彼らの独特さ、異様さ、そして面白さを再認識すると共に、なんでこれが芸術なんだっけ?という初歩的な疑問に回帰させられた。

大学で美学美術史を学んでいたが、卒業して早十数年…。どうしてchim↑pomは芸術足りえるのか?を学び直すため、私はある本を読むことにした。

 

『美学への招待』 佐々木健一

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この本は、美学とは何ぞや?の初歩の初歩の部分が分かりやすく解説されている入門書である。とはいえ、最低限の世界史、美術史の変遷を知っていることが前提で書かれている。この本に書かれていることを、自分なりにかみ砕き、更に更に簡単に纏めると、以下のようになる。

 

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近代=人間中心の時代

人間中心とは?

→神(教会)中心の世界観から脱し、人間自身が新しい価値を創造すること。

いかに人間が独力で「平和で生きる喜びのある社会」を築くことができるか?という課題と向き合う必要が出てくる。

→新しい価値を創造する天才が各分野から排出される。

科学:ニュートン

文学:シェークスピア

絵画:ラファエロ

音楽:モーツァルト

兵法:ナポレオン

 

天才は藝術の分野に多く存在する。つまり、当時、藝術は科学と同じくらい重要なものとして捉えられていた。

では、その藝術の創造性は何によって測られるのか?

感性。魅力。言葉にならないもの、感ずるよりほかにないもの。

 

つまり、近代に成立した美学とは、藝術感性、この三つの同心円的構造から成っており、この領域の学問のことを言う。

 

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しかし、19世紀以降、この三者の同心円的構造は崩れる。それは、美しくない藝術が生まれ、それは感性ではなく知性で理解/解釈される必要があるからだ。

マルセル・デュシャンの《泉》は、まさにそれで、一般的に私たちは、小便器を見て「美しい」とは感じない。感性を以ってすれば《泉》は藝術足りえないが、知性がそうさせる。知性で解釈をすることで、《泉》は藝術作品なのである。

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chim↑pomとは、この「感性で美しいと感じるものとしてではない藝術」「知性で解釈する藝術」で間違いないのだろう、というのが私の解釈である。

彼らの作品は、「都市と公共性」「パンデミック」「戦争」「原発」「災害と復興」などのテーマを通じて、人間が社会生活を営む上での矛盾や理不尽を告発するようなものが多い。例えば、渋谷で捕まえたネズミを剥製にし、毛に着色して「ピカチュウ」を模すという作品は、百歩譲っても「わぁ~かわいい」「なんて美しいんだろう」とは思えない作品だ。むしろ悪趣味だと嫌悪感すら抱く人もいるかもしれない。(今回の展示では、ピカチュウはいなくて(私が見落としてなければ)、しかし金色の毛のネズミの剥製はいた)都市では排除される対象として取り扱われるネズミは、一方で人気アニメの主役キャラであり、その二つを剥製という形で融合することで、我々の視点の危うさ、パースペクティブの脆さを露呈させる装置として機能している。chim↑pomの作品には、そういう我々が内面に持っている狡さや、「こんなもんでしょ」となあなあにして見えないことにしている問題、気付いていない矛盾を、表側に引きずり出してくる機能があるのだ。

問題は、彼らのやり方が、いつもセンセーショナルで物議を醸すこと。原爆ドームの上空に、飛行機雲で「ピカ」と描くなんて、あまりにも悪趣味だし、平和を願い広島に送られてくる折り鶴を紙に戻してまた折るなど「何のために?」を思わざるを得ない作品もある。気分を害する人もいる。でも、そうして話題に上がることで、人々の関心が集まり、その問題に関して議論が深まるムーブメントまでを含めて、彼らの作品なのだろう。今回の展示では、そんな彼らのこれまでの軌跡を、時代を追って俯瞰的に鑑賞することが出来て、とてもよかった。

一番嬉しかったのは、渋谷駅内にある岡本太郎《明日への神話》へ勝手に付け足しちゃた作品、《Level7 feat.『明日への神話』》を生で見ることが出来たことである。

2011年4月、当時の私は、大学の美術史学科を卒業して、美術史とはまるで関係のない貿易の会社に入社して1年目だった。震災で卒業式はなくなり、新入社員研修は節電のため暗い会議室で行われ、震災の傷跡が深く残る中での社会人スタートだった。美術のことを仕事にしなかった自分への不安も、社会人デビューの不安も、震災後の原発事故の不安も、とにかく不安だらけの春だったのである。そんな中、この《Level7 feat.『明日への神話』》のことをtwitterで知った。私の沢山の不安を蹴散らしてくれるような、社会全体への小気味よい壮大ないたずら。当時の私にとって、非常にスカッとするものだった。世の中暗い感じだけど、あんな風にふざけていいんだな、と。そう思ったら、肩の荷が少し軽くなった。そんな作品だったからこそ、何としても生で見たかった!!と強く思っていたのである。

 

というわけで、非常に難しいchim↑pom展、とても面白かったので(知的に)、ぜひ足を運んでみてください~!

 

www.mori.art.museum