nina1988の日記

東京に暮らすワーママが日々のことを綴る日記。主に美術館に行ったことなどの感想を綴ります。

川村記念美術館に行ってきた

先日、川村記念美術館に3歳の息子と行ってきた。この美術館は、大日本インキ化学工業の創設家の2代目の方が設立された美術館で、千葉の佐倉市にある。佐倉市は、他にも科学品メーカーの工場がいくつかある街で、里山と工場がゆるやかに交じり合う地域。日本の地方都市の代表的な風景の中に突如現れる美術館だ。東京駅の八重洲口から直行バスが出ており、片道1時間で着く。天気が良いけど特に予定がなく、休日っぽいことをお手軽にしたい時に、フラッとバスに乗って日帰りで行くことが出来る最高のスポットだ。

 

前回記事にした大塚国際美術館といい、わたしが大好きなARTIZON美術館といい、この川村記念美術館といい、わたしはこの、「企業の創業家の一人が美術愛好家で、有り余るパトロン力で美術館を作っちゃった」系の美術館が大好きだ。企業経営は利益を出すためのみならず、社会をより良くするための営み、社会貢献の一環であり、得たものを還元したいという心意気や、それを美術館というやり方で行う経営方針が、とてもおしゃれだな~と思うのである。勿論、節税対策的な意味合いもあるんでしょうが。

 

私は、気軽に都内から日帰りでshort tripでき、美術館で美しい作品を鑑賞しながら、レストランで美味しいお食事がいただける場所として、この千葉県の川村記念美術館と、静岡県クレマチスの丘が大好きだったのだが、こんな素敵な場所、一体誰が作って管理運営してるわけ!?と気になり調べると、なんとクレマチスの丘の経営母体はスルガ銀行で、あの不正融資で話題になった企業であることを最近知った。経営理念が明るく、社会に貢献したい気持ちが美術館となって表出する場合と、経営陣の私利私欲が背景にある場合があるんだなということを、この一件で考えてしまいまして。。やっぱり理念が尊敬できる企業が運営している美術館の方が、個人的には好きだ。(不正融資の話題以降、クレマチスの丘へは足が遠のいてしまっている…。駿河湾が一望できるとっても素敵な場所なんだけどね)

 

話が逸れたので、川村美術館に戻る。

kawamura-museum.dic.co.jp

 

現在の展示は、Color Field 色の海を泳ぐ展。

一階は、所蔵作品を色別に分けた展示、二階は、川村記念美術館が所蔵する大型作品と、カナダのオードリー&デイヴィッド・マーヴィッシュ夫妻が所蔵する抽象絵画がミックスで展示されていた。

以下、感想をいくつかの視点に分けて考えてみたい。

 

(1)美術館に子どもと行くということのスリル

川村記念美術館は広い庭があり、散策やピクニックが出来るし、抽象絵画は知識がなくても直観でキレイと思えるし、子どもと行くにはとてもいい美術館だと思う。しかし、鑑賞者に寄り添いすぎてくれているためなのか?作品周辺に立ち入り禁止のロープや囲いがなく「これ以上は近づかないでね」のテープが床に遠慮がちに貼られているだけである。これは「大人の」鑑賞者には非常にありがたい。しかし、今回私は3歳の「子ども」(息子)と行ったため、個人的に非常にスリリングな鑑賞となった。というのも、「このロスコルームで息子が急に何の予兆もなく発狂し、絵に追突した場合、私は償えるか?いや、絶対無理、保険入ってるかな、この絵」とか、「このブランクーシの彫刻、ボールみたいとか言って触ったりしないよね」とか、とにかく「息子が急に予想だにしない動きをして作品を傷つけないか」という不安と邪念が付きまといまくった。なので、終始必ず手をつなぐか、息子の身体の一部を掴みながらの鑑賞となったのであった。うん、楽しかったけど、もう一回一人で行きたい(本音)。監視の方も、息子が部屋に入ってくると、それまでゆるりと座っていたのが、背筋を伸ばしたり、立ち上がったり、いつでも息子を静止でき臨戦態勢に入られる雰囲気が、ひしひしと伝わってきた。ご心配おかけしてすみませんでした…。

とは言いつつ、今回の作品リストは、絵を縮小したものが一緒に印刷されていて、息子はそれを「地図」と呼び、実際の作品を見ながら、「あ、この地図とこの絵が同じだ!」とか、ポロックの絵をみて「ぐちゃぐちゃでかっこいいねぇ」とか、様々な絵画を目の前に、3歳の感性で楽しんでいたように見えた。そんな純粋な感性を持つ息子と一緒に鑑賞できて、母はとても楽しかったよ。ありがとう、息子。

 

(2)「あの絵」の不在が際立つ展示

Color Fieldというタイトルと、川村記念美術館というキーワードを二つ聞いて、私の頭にまず浮かんだのは、バーネット・ニューマンの《アンナの光》だった。ニューマンは戦後ニューヨークで活躍した抽象表現の代表的な作家で、しかもその晩年の大作《アンナの光》は、数年前まで、この川村記念美術館が所蔵していたのだ。今はトゥオンブリールームと呼ばれる、屋外の緑と光が差し込むその部屋は、昔は「ニューマンルーム」と呼ばれ、《アンナの光》は、そこにあった。

私は、10年前くらいに足繁く川村記念美術館に通っていた。なぜなら、美術史学科での卒論をニューマンをテーマに書いていたから。同じく、ジョセフ・コーネルで卒論を書いていた友人と一緒に(川村記念美術館が多数所蔵)、バスに乗って何度も通ったのである。だから、良く覚えている。《アンナの光》の前に立つと、絵画にも関わらず筆致が一切ない、影も光もない「赤」が眼前の視界を全て埋め尽くし、その「赤」自身が発光し、輝いていたことを。《アンナの光》まさしく、絵が発光している。「赤」が光を放っている。そう感じたのである。

だから、今回のColor Fieldという企画展のタイトルを見た時、「お、《アンナの光》を買い戻してくれたのか!?」と、勝手に期待し、勝手に勘違いしたのである。

ああ、また見たい、《アンナの光》。買った人、早く公開してください…世界中どこでも見に行きます。

 

(3)実際に作品をみることの大切さ

川村記念美術館の凄いところは、①所蔵作品が大きく、②その大型の作品をゆとりある空間で思う存分楽しめること、だと思う。私が所属していたゼミの教授は、とにかく現代アートは足を運んでみて実際に見るのが大切、ということを仰っていた。その意味がよく分かるのが、この川村記念美術館だと思う。一面同じ色の作品でも、どうやって塗ったんだろう?と考えるし、絵具を垂らして吹き付けたような絵は、その凹凸の激しさに驚かされるし、美しいグラデーションには、縮小された印刷物よりも何百倍も心を動かされる。大型になることで、作品というよりも、もはや自然を崇拝し愉しむような感覚になるのだ(私だけかな)。今回、特に実際に見ることが出来て良かったと思ったのは、ジュールズ・オリツキーの作品と、ラリー・プーンズの作品だ。もう、実際に行って見てみてくださいとしか言いようのない感動が、そこにはある(と思う)。

 

はあ、たぶん叶わないけど、もう一回一人で(もしくは大人の友人と)、ゆっくり行きたいな!(二回目の本音)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在開催されている企画展は、これ。

kawamura-museum.dic.co.jp